2-1. もう表紙から勝負は始まっている

私がデザイナーを始めてから二十数年、その間いろんなデザインの会社案内を見てきました。
カッコイイもの、ユニークなもの、シンプルなもの、にぎやかなもの。
こんなにいろんなデザインのある会社案内も、こと一業種に限って見ると、どれも同じような表情を持っていることに気付きます。

にぎやかな業種の会社案内は、ほぼどこも同じように「にぎやか」ですし、堅いイメージの業種はどれも同じく「堅い」会社案内です。そして中味と同様、その個性は表紙にも表れています。
堅い業種の会社案内は、どれも「堅い顔」でたたずんでいます。
「もっとリラックスしたら?」といいたくなるくらい。

同じ業種の会社案内同士では、なかなか「こいつは個性的だ!」と思うような“とんがった顔”の持ち主はいません。クライアントは冒険を好まないのでしょうか。
デザイナーが型にハマッているのでしょうか。

しかし考えてみて下さい。情報の入口はまず会社案内からです。
まだ営業マンの出る幕ではない時点で、会社案内は一人頑張って営業をしてくれています。
まわりにいるのはてごわい他社の会社案内達。
その中で、少しでも自分をPRしなければいけないのです。
ちょうど入社試験の面接のようでもあります。
初対面で面接官が目にするのは、まず顔。
印象深い顔の持ち主は、それだけで一歩リード、です。

ただし勘違いしないで下さい。
ここで言う“顔”とは、単なるデザインではありません。
「他社がすべて風景の写真だから、我が社は動物で行こう」なんて差別化ではないのです。

ではどういうものかというと、
例えば表紙にその会社の一番主張したいイメージとキャッチコピーを持ってくればどうでしょう。
そう、ポスター的な表情をさせてみるのです。
あるいは新聞広告的表情でもいい。
とにかく、抽象的なイメージで一番目につく部分を飾るのはもうやめましょう。
だってそれじゃあ、開けてみるまでその会社の中味がわからないじゃないですか。

想像してみて下さい。
情報を知ろうとして、数社の会社案内を取り寄せたとします。
それらが机の上に並べられている時も、常に目に入る部分は表紙。
目立つ表紙は必ず印象に残ります。
印象に残るものは競争を一歩リード、です。
あるいは第三者が目に留めるかも知れません。
生き残り競争は、もう表紙から始まっているのです。

表紙のデザインに力を入れないデザイナーは、中味にだって力を入れません。
極端な話、中味よりも表紙に力をいれろ、なのです。

例えば雑誌の世界はどうでしょう。
月刊誌なら、毎月初めに本屋の店頭に、一斉に並べられます。
どの雑誌も話題の内容はほぼ同じ。
となると、どうやってお客に手にとってもらうかにかかってきます。
そのための工夫が、表紙のデザインには盛り込まれています。
興味をそそるような表現のキャッチコピー、読者がその時期関心を持ちそうな“旬な”話題の見出しを大きく主張する・・・。

駅の売店の新聞だって、一面の見せ方が勝負です。
ここでほぼ勝負は決まっていると言っても言い過ぎではありません。
雑誌や新聞の世界では、締めきりぎりぎりまで表紙コピーの検討をしているのです。

表紙デザインのキーワードは、
「どうやって差別化するか」
「端的に自社をPRできるイメージをどう表現するか」 です。